東京高等裁判所 昭和46年(行ケ)101号 判決
一、原告主張の請求の原因第一項から第三項までの事実は、当事者間に争いがない。
二、そこで、原告主張の取消事由の有無について判断する。
(一) 取消事由(一)について
成立に争いのない甲第三号証、同第四号証によれば、本願発明の明細書における発明の詳細な説明には、「本発明は向流して接触域を通過する気体および液体の親密な接触を促す方法および装置に関するものである。」、「液体は無障礙接触域を通つて上昇する気体に向流して接触域を通つて降流し、多数の軽量要素をこの接触域で乱動せしめる。」、「気体は容器底部に導き、液体に対向して昇流し、容器頂部から放出する。」、「気体は格子5下側の装置部分9に通ずる管8を通つて装置下底部に入り、液体は管12および撒布装置13を通つて格子4上側の装置上部3に入る。そして気体は霧液分離装置11および排気管14を通つて装置上部から排出し、液体は下底部の排液管15を通つて排出する。」などの記載があることが認められる。そうすると、本願発明の要件とする「相対して向流する気体および液体」とは、それぞれ多数の軽量要素が乱動する接触域の下方および上方から向きあつて上昇および降流して、その接触域で広い面積で接触し、そのまま特に滞溜することなくその上方および下方へと流出する気体および液体を意味すると解される。
被告は本願発明において軽量要素が乱動する場所を接触帯域Bとすればそこでは気体と液体とは向流の関係にないと主張する。しかしながら、この部域において軽量要素が上つたり下つたり横や斜めにはねたりして気体と液体とが乱動状態になつているとはいえ、全体として見れば上方から落下する液体と下方から上昇する気体とが依然として向き合つて流れていることは、否定できないから、被告の主張は採用し難い。
これに対し、成立に争いのない甲第五号証によれば、引用例においては、気体は吹込口より滞溜液中に吹込まれ、滞溜液とその中にある固体粒子とを同時に吹き上げ流動させながら接触し、その接触域を通つて上昇するのであり、一方、液体は固体粒子とともに滞溜して流動するのであつて、気体と向きあつて反対方向に流れるのではないこと、液体は補充のため上方から落下することはあつても、気体との接触域においては滞溜液として流動しながら気体に接触するものであることが認められる。したがつて、引用例においては気体と液体とが上下反対方向から向きあつて流れて接触するのではないことが明らかであり、気体と液体とが相対して向流するとはいえないものといわなければならない。
被告は引用例において固体粒子の乱動しない場所すなわち接触帯域Aにおいては液体と気体とは向流の関係にあると主張するけれども、気体と液体との接触が問題となるのは被告のいう接触帯域Bであるから、接触帯域Aのことはあえて問う必要はないと考えられる。
してみると、本願発明および引用例はともに気体と液体を向流的に供給することによる向流流体の接触方法である点において同一の技術思想であるとした審決には、上記の差異を看過した違法があるといわなければならない。
(二) 取消事由(三)について
前掲甲第三号証、同第四号証によれば、本願発明の特許請求の範囲には、「毎分三〇〇呎~八〇〇呎の気体流速に依て液体を霧粒状にする」との記載があり、また明細書の発明の詳細な説明には、「在来斯る塔又は筒の型態は種々あつて例えば噴射塔で気体が障礙なく上昇し液体が噴嘴その他の噴霧装置に依て滴状となつて気体中を降下する。この種のものは構造が簡単で気体の圧力損失が少ない点ではよいが、液体の滴状化に大なる動力を要し」との記載があることが認められる。してみると、気体の流速を限定することによつて、単に気―液―固三相流動相を形成するという作用効果のみならず、液体を霧粒化する作用効果をも奏するものと認めることができる。
もつとも、毎分三〇〇呎~八〇〇呎という流速の限定に限界的な意義が認められないことは前記甲号証の記載から看取することができ、この点は審決の指摘するとおりであるけれども、かような数字の限定は、少くとも液体の流速が高速であることを規定しているとみて差支えあるまい。そして、前記甲第三号証によれば、明細書の発明の詳細な説明に「本発明の方法に於ける気体及び液体の適当な流速も既知の浮床に於ける流速より遙かに高いのである。斯様に流速が高いので流通(又は塔容積)のみならず、吸収率を著しく向上し、又回収を目的として操作する場合の気体成分の回収も同様に良い。」との記載があることが認められる。そうすると、気体流速を高速にすることによつて、前記記載の効果をあげるものといわなければならない。
してみれば、使用する軽量要素の形状、比重および使用する気体と液体の粘度や比重などの限定がなくとも、気体流速の限定に格段の作用効果ひいては特別の意義があることを認めることができる。
これに対し、引用例のものにおいては、気体の流速が固体粒子に動因を与え、気―液―固三相均一混合相を形成するものではあるが、液体の霧粒化の作用を行うものではなく、また気体が液体中を通過する関係上実施例で気体流速五~一〇〇cm/Sとあるように本願発明のような高速とすることはできず、したがつて吸収率においても本願発明と差異のあることが前記甲第五号証から看取することができる。
このように、本願発明と引用例とは、気体の流速を異にすることにより作用効果にも格段の差異があることが認められるから、両者の間に上記の差異のあることを看過した審決は、その認定を誤つた違法があるものといわなければならない。
三、以上の理由により、本件審決は前記の諸点において違法のかどがあるから、他の争点について判断を加えるまでもなく取消をまぬがれない。